HABITAT of RETICENT RIBBITTER by YAMAGUCHI Yuhei (山口侑平) - Tohoku University

《HABITAT of RETICENT RIBBITTER》

ヘッダー写真

秋田県の大潟村が気になります!

 秋田県の大潟村って,魅力的ですよねぇ.すごく好きです.行ったことないけど.行ってみたい.すごく.
 水路に囲まれている場所が大潟村です.なんかヤバくないですか.凄すぎます! RPGの世界観って感じですよね.独立国家っぽさもありますし.すごく,いい! 大潟村は,もともと八郎潟という湖沼だった場所を干拓して作られた地域らしいです.干拓される前の八郎潟は,琵琶湖に次いで日本で2番目に大きな湖だったそうです. もともとは魚がたくさん獲れる場所だったようですが,干拓された現在は陸地の大部分が水田となっていることが航空写真から見てとれます.

大潟村

 ビジュアル的に大潟村はいかにも稲作が盛んそうですね. 昨今は農業人口の減少や高齢化などにより,耕作放棄地の増加が問題となっていますが,大潟村はどうなのでしょうか?  ちょっと探ってみましょう! Sentinel-1データを使ったリモートセンシングで!

[あとから知ったこと]

 この記事を公開してから知ったのですが,大潟村には耕作放棄地がないそうです. この記事では非耕作がどのくらいあるかを便宜的に設定した基準に基づいて明らかにすることを目指しましたが,そんなことしなくても,大潟村は耕作放棄0だそうです. ソースはこちら. この記事で行った処理にて非耕作と判定された農地は,もしかしたら水田ではなく,他の作物を育てる用途で利用されている可能性もあります(これの事実確認には現地調査しないといけないですが). 何はともあれ,実際の大潟村の状況を適切に反映できていない可能性が大きいですが,データ処理の事例としてお読みください.

[やること]

 大潟村の水田の利用状況をインスタントに推定してみたいと思います. あくまでもここでやることは学術的に学術的にキッチリしたことではなく,衛星画像の取得・可視化を通して,考察を楽しむという趣味の範疇に留まります! ということに注意して読んでください. ただし「もっとこうした方がいいよ!」などのアドバイスは大歓迎です! よろしくお願いします.
 この記事では以下のことをやりました.

  • 衛星画像を取得する(GEE; Google Earth Engine)
  • 衛星画像を可視化(R)
  • 適当な閾値に基づいた耕作状況のマッピング(R)
  •  GEEでデータをエクスポートし,それをRで分析するといった感じです.コードは Githubにて共有しています.ファイルの説明は記事の最後にちょこっと付けておきます.

    [GEEでデータ取得]

     Sentinel-1のデータを取得します. Copernicus Browserからデータをダウンロードすることも可能ですが, 今回はGEE; Google Earth Engineを使います.取得するデータは,以下の2つです.

  • 5/1から5/30までの偏波VHの平均値から3/15から4/1までの偏波VHを引いたもの.
  • 5/1から5/30までの偏波VHの平均値
  • データは2017年から2024年までのものを取得します.それぞれ下降軌道のものに限定しました. 分解能は10mです.ムーア近傍のピクセルの平均値を自ゾーンの値にするという処理を施しました.
     GEEの操作画面はこんな感じです.2024年5月の後方散乱(偏波VH)を表示しています. 大潟村の田園地帯は青色になっています. 海と同じ色ですね.後方散乱が海と同じ水準になっているためです. つまり,水田には水が張られています. 水が張られている水田はきっと耕作が行われるはずです. かなり単純な考え方ですが,この後方散乱の度合いに適切な閾値を設定すれば,耕作地と非耕作地を判別できそうです.

    GEE画面

     データはいったんGoogle Driveに落とし,それを自分のPCにダウンロードするという方式をとっています. Google Driveと自分のPCを同期させておくと,結構便利なのでオススメです.

    [Rで可視化]

     大潟村の水田ごとの後方散乱の平均値を算出し,それを可視化します.
     水田ごとの後方散乱の平均値を計算する際に,筆ポリゴンを使用しました. 筆ポリゴンは日本全国の水田や畑の形状をデータ化したものです.今回は水田のデータだけを抽出して使いました.
     Rには{exactextractr}という最高のパッケージが存在しています. これを用いると簡単に水田ごとの後方散乱の平均を算出できます.
     水田ごとの後方散乱の平均値を計算したものを可視化してみましょう.

    VHの分布

     水色になっている水田は後方散乱が小さく(水が張られていそう),赤色になっている水田は後方散乱が大きい(水が張られていなさそう)です. 候補散乱は-35が最小(もっとも水色),0が最大(もっとも赤色)として描画しています. 結構年毎にばらつきがある?
     次に,5月の後方散乱と,3月下旬の後方散乱の差分を可視化してみましょう.

    VHの差分

     水色の地域ほど差分の値が小さいということを意味します. この値が小さくなっているほど,3月から5月にかけて後方散乱が低下したというふうに考えられます. つまり,水色っぽいほど水田に水が張られていそうだと考えられます.

    [耕作状況の推定]

     では,耕作されているか,されていないかを推定してみましょう.
     それっぽい閾値(判断基準)を定めます「閾値を下回っていれば耕作されている,上回っていたら耕作されていない」といったようなことをします. 本来であれば,フィールドワークなどをして実際の耕作状況を参照した上で閾値を設定するのが良いと思います. しかし,今回はフィールドワークなどを行わず,私が過去に行った研究に基づいて値を設定しました. 明確な根拠を持って設定したものではない(機械学習などを行い,Ground Truthとのずれが小さくなるようチューニングしたものではない.なお.私が過去に行った研究では複数時点の衛星指標を入力として,DNNにより耕作地・非耕作地を判別しました)ことに注意してください,.
     5月の偏波VHの閾値は「-20」とします.偏波NHの差分の閾値は「-8」とします. この2つの閾値の両方を上回っているものを「非耕作地」として判断します. あくまでも私が独断と偏見で決めたものなので,これが絶対的に正しいものでは決してありません.
     結果を見てみましょう.

    耕作状況の結果

     水色の水田は耕作されている水田,赤色の水田は耕作されていない水田だと判断されました. 2017年は他の年と比べて非耕作地が多いという結果になりました. 釘を刺すようですが,これはあくまでも便宜的に設定した基準によって判断された耕作状況なので,必ずしも正確ではありません. また,年によって地表の観測タイミングも若干異なっているはずです.さらに,分解能の問題上,水田以外の要因のバイアスとして入り込んでいる可能性もあります. これらのような課題がある上での結果です.
     耕作割合の推移も可視化してみましょう.

    耕作状況の推移

     やはり2017年は非耕作地が多いようです.その後は,若干年によってばらつきはあるものの,80%以上の水田が耕作されているように見えます. 年を経るにつれて耕作水田が減少しているという傾向は見出されませんでした.この時代において農業の水準が悪化していないというのは素晴らしいことですね.

    [まとめ]

     秋田県の大潟村の水田耕作状況の経年変化をインスタントに見てみました. SARの衛星画像を取得し,偏波VHの後方散乱の値から,水田耕作が行われていなさそうな水田を炙り出しました. その結果,農業の担い手が減少している現代において,大潟村の稲作状況は悪化していなさそうだということがわかりました!  大潟村,これからも末長く農業が継続されていって欲しいです.近いうちに行かせてください!

    [コードに関して]

    Githubのこのリポジトリにてコードとデータを公開しています.内容物は以下の通りです. 各々の環境でCloneするなりして使ってください.

  • 05368大潟村(2021公開): 大潟村の筆ポリゴンデータ.
  • sar_data: ここに大潟村のSARデータが入っています.2017年から2024年までのデータです.各年「5月の偏波VH(VH)」と「5月の偏波VHと3月下旬の偏波VHの差分(diff)」の2つのファイルが含まれています.
  • ohgata.R: Rコードです.基本的にはこれを動かしてください.
  • ohgata.js: GEEでデータを取得するためのJavaScriptのコードです.すでにこのリポジトリ内に衛星データは含まれているので,これは別に使わなくてもOKです.
  • Email: yuhei.yamaguchi.t1@dc.tohoku.ac.jp
    𝕏    Instagram    Github    RPubs