IPU / 統計デモ 02

サンプリング方法のシミュレーション Sampling Designs

仮想の大学(1 〜 4 年 × 5 クラス・全 600 人)から、5 つの方法で標本を抽出する。 学生には 学年・クラス・学籍番号・部活・アルバイト・恋人の有無 の属性がある。 誰がどう選ばれるかを目で見たうえで、同じ抽出を何百回も繰り返し、 「その方法で母集団の比率をちゃんと捉えられるのか」を偏りとばらつきの両面から確かめる。 「恋人がいる」だけは母比率が公開されていないので、実際の調査と同じく、推定するしかない。

抽出方法
調べたい項目(この比率を推定する)
 
母集団
 
標本サイズ n
40
 
抽出するクラス数 m(多段のみ)
4
 

① 母集団と、いま選ばれた 標本

 

該当する人 該当しない人 抽出された人 選ばれたクラス(多段)

 

母集団の真の比率
この標本からの推定値
sample proportion
今回の誤差
推定値 − 真の値
実際の標本サイズ
 

② 何度も繰り返したときの推定値の分布

 

③ 5 つの方法の比較

偏り(bias)= 推定値の平均 − 真の値。0 に近いほどよい。デザイン効果 = その方法の分散 ÷ 単純無作為抽出の分散。1 より小さければ SRS より効率がよく、大きければ同じ n でも精度が落ちる。

抽出方法推定値の平均偏り標準偏差デザイン効果実際の n

④ この大学のつくり(データの生成ルール)

どの手法がどこで失敗するかは、母集団のどこに関係があるかで決まる。仕掛けは次の 5 つ。

くわえて、同じ学年のクラスどうしにも「くせ」(学級差)を持たせてある。これがあるから、クラスを単位にまとめて選ぶ設計では、偏りがなくても精度が落ちる。

5 つの方法

  • 単純無作為抽出 全員に通し番号をふり、n 人を等確率で選ぶ。偏りはない基準形。ただし母集団全員の名簿が必要で、実査のコストが高い。
  • 系統抽出 間隔 k = N/n を決め、最初の 1 人だけ無作為に選んで、あとは k 人おきに機械的に選ぶ。名簿さえあれば実務が楽。この方法の性能はすべて名簿の並びと k の関係で決まる。並びの周期を外していれば標本が自動的に均等に散るので暗黙の層化として働き、単純無作為抽出よりずっと精度が上がる。しかし k が並びの周期とぶつかった瞬間(この大学なら k が 3 の倍数)、毎回ほぼ同じ種類の人ばかりを拾うようになって壊滅する。無作為なのは最初の 1 人だけなので、そもそもk 通りの標本しか作れない点にも注意(②の系統抽出の山がとびとびの棒になるのはそのため)。
  • 多段抽出 まずクラスを何個か選び、そのクラスの中から学生を選ぶ。実査は劇的に楽になる。ただしクラスを等確率で選ぶと、小さいクラスの学生ほど選ばれやすくなるため、クラスの大きさと関係のある項目では偏る。この大学では上級生ほどクラスが小さいので、学年と関係のある項目が危ない。
  • 確率比例多段抽出(PPS) クラスを人数に比例した確率で選び、どのクラスからも同じ人数を取る。これで全員の抽出確率が等しくなり(自己加重)、偏りが消える。ただし偏りが消えてもばらつきは大きいままで、デザイン効果は 1 を大きく超える。クラスによって傾向が違う以上、少数のクラスに標本を固める設計の宿命(クラスター効果)。
  • 層化抽出 学年を層とし、人数比で n を割り当ててから、その中で無作為抽出する。標本の学年構成が必ず母集団どおりになるので、学年と関係のある項目では、同じ n でも単純無作為抽出よりばらつきが小さくなる。

試してみること

  1. 偏りを見る:「クラス人数がちがう大学」+「運動部に所属している」で 1000 回。多段抽出だけ分布が左にずれる(およそ −2.3 ポイント)。4 年生は少人数クラスなのに、クラスを等確率で選ぶと 4 年生が過大に入り、引退した層の声が大きく出るため。結果変数の「アルバイトをしている」も、部活を通じて学年とつながっているので同じ理由で +1 ポイントほど上にずれる。
  2. 直し方を見る:同じ設定で確率比例多段抽出に切り替えると、ずれが消える。クラスを人数に比例した確率で選んだだけで直る。ただしばらつきは大きいままである点も見ておく。
  3. クラスの人数をそろえてみる:「全クラス 30 人の大学」に切り替えて、同じ「運動部に所属している」で 1000 回。多段抽出の偏りが消える。つまり偏りの原因はクラスをまとめて選ぶこと自体ではなく、大きさの違うクラスを等確率で選んでいたことだと分かる。それでもデザイン効果は 1 を超えたままである点も確認する。
  4. 系統抽出と周期の共振:名簿は 運動部 → 文化部 → 無所属 の 3 人周期。だから k が 3 の倍数かどうかだけで結果が決まる。「クラス人数がちがう大学」+「運動部」で n を切り替えて、系統抽出のデザイン効果を並べてみる。
    n = 30(k = 20)→ 0.33 / n = 60(k = 10)→ 0.10 / n = 120(k = 5)→ 0.08
    n = 40(k = 15)→ 2.7 / n = 100(k = 6)→ 6.6 / n = 200(k = 3)→ 17.8
    k が 3 の倍数だと毎回ほぼ同じ部活ばかりを拾ってしまう。3 の倍数を外すと逆に 3 種類をきれいに拾い、単純無作為の 10 分の 1 以下の分散になる。n を増やしたのに精度が落ちる(n = 120 → 200)ことすら起きる。
  5. 最悪ケースを見る:「全クラス 30 人の大学」+「運動部」+ n = 20(k = 30)。クラス人数もそろっているので周期が最後まで崩れず、推定値は 0% から 100% まで暴れる(標準偏差 29 ポイント、単純無作為は 11 ポイント)。n = 200(k = 3)ではデザイン効果が 70 に達する。系統抽出は「楽な方法」であって「安全な方法」ではない。
  6. 並びと無関係な項目は壊れない:同じ設定のまま「恋人がいる」に切り替える。恋人の有無は名簿の並びと関係がないので、どの n でも系統抽出のデザイン効果はほぼ 1 のまま。壊れるのは名簿の並びと調べたい項目が対応しているときだけで、しかも実務では名簿の並びの素性が分からないことが多い。
  7. 層化の効き目:「運動部に所属している」(学年差が大きい)と「文化部に所属している」(学年差なし)でデザイン効果を比べる。層化が効くのは、層と調べたい項目に関係があるときだけ。
  8. クラスター効果:「運動部に所属している」で確率比例多段抽出の行を見る。偏りはほぼ 0 なのに、デザイン効果は 1.9 前後。クラスによって傾向が違う以上、少数のクラスに標本を固める設計では、同じ n でも精度が落ちる。「偏りがない」と「精度がよい」は別の話。
  9. n を変える:どの方法でもばらつきは n を増やせば縮む。しかし偏りは n を増やしても消えない。多段抽出で n を 200 にしても、分布が細くなるだけで、ずれた場所に細くなる。
  10. 答えを知らずにやってみる:「恋人がいる」を選ぶ。母比率は伏せてあり、母集団のグリッドも塗られない。分かるのは実際に調査した相手の答えだけで、これが本物の調査の状況。好きな方法で 1 回抽出して数字を出し、いくらだと思うか宣言してから「答え合わせ」を押す。多段抽出でやると、自信を持って出した数字が真の値からずれていることに気づく。しかも現実には答え合わせのボタンが存在しない。だから抽出方法の設計が効いてくる。